UXのビジネスケース:デザイン投資のための強力なケースを構築する方法
限られたリソースと他部門との競争において、UI/UXデザインの取り組みに説得力のあるビジネスケースを作成することは、賛同者確保のために非常に重要です。その際、自身に最高のソリューションがあり、その取り組みを成功させることができることを証明しなければいけません。
本記事では、UXデザインの専門家が説得力のあるUXビジネスケースを作成する方法について、UAEの宅配サービス「Delivery Hero」の事例を交えてお話します。
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ビジネスケースとは
ビジネスケースは、プロジェクト、イニシアチブ、または戦略の利点と、会社または部門がそれを必要とする理由を概説しますが、UXのビジネスケースは、例えばデザインシステムの構築、デザインツールの購入、大規模なUXリサーチプロジェクトへの投資など、特にデザイン関連のプロジェクトに関連します。
UXチームは、ビジネスケースを通じて以下をする必要があります:
- 費用の必要性(問題)の実証
- デザイン上の解決策の提示
解決策は、価値提案と組み合わせることで、より効果的になることが多いのです。このプロジェクトは、デザインと組織にどのようにROI(投資対効果)をもたらすでしょうか?
UXのビジネスケースが必要な理由
特にUXプロジェクトでは、ステークホルダーからの賛同は得難いです。非デザイナーの多くは、ユーザー中心デザインの原則やデザイン思考を理解しておらず、デザイン投資に対して消極的なのです。
UXビジネスケースは、製品のCX(カスタマーエクスペリエンス)を上げることがいかに利益につながるかをステークホルダーに示す必要があります。たとえば、デザインシステムは大きな投資ですが、ステークホルダーは、再利用可能なコンポーネントのライブラリがどのようにビジネス価値をもたらすのか理解できないことが多いため、デザイナーはビジネスケースを通じてこの価値を示さないといけません。
Delivery Heroのビジネスケースの価値提案
Delivery Heroは、デザインシステムのビジネスケースに価値提案を使用した良い例です。Delivery Heroのデザインチームは、自社のデザインシステムをステークホルダーに売り込もうと何度か試みた後、実際のケーススタディや価値提案など、より説得力のあるケースの作成が必要であることに気づきました。
そこでDelivery Heroの製品デザインチームは、デザインシステムを【使用した場合】と【使用しない場合】のユーザーインターフェースの構築を1つの画面で比較しましたが、その結果は、驚くべきものでした:
- デザインシステムなしでの構築 – 総時間: 7.5時間
- 再利用可能なコンポーネントとして構築 – 総時間:3.25時間
この実験では、再利用可能なコンポーネントを使用することで、フロントエンドの工数の57%削減と、フロントエンドの負債を0%にすることが実証されました。
フロントエンドの負債はDelivery Heroにとって複合的な問題となっていたので、この問題を解消し、納期を60%近く短縮することで、ステークホルダーに大きなROIを示したのです。
Delivery Hero のステークホルダーはその結果に感銘を受け、会社のデザイン システムである「Marshmallow」にゴーサインを出しました。(Delivery Hero のストーリーの詳細については、こちらをご覧ください。)
UXビジネスケースに含めるべきこと
ビジネスケースの目的と重要性がわかったところで、盛り込むべきポイントを探ってみましょう。
- エグゼクティブサマリー
- ミッションステートメント
- 市場
- 問題提起
- 解決策と価値の提案
- リスク
- ロードマップ
- 必要なリソース
- チーム
ここで重要なのは、必ずしもこのポイントすべてを使うわけではなく、ビジネスケースとプロジェクトに関連するものだけを使うということです。ビジネスケースを徹底的に、しかし簡潔にすることが目標であり、もしステークホルダーが調査結果を見たい場合は、別途提示することができます。
エグゼクティブサマリー
エグゼクティブサマリーは、ビジネスケースとそのセクションを要約したものであり、ビジネスケースのエグゼクティブサマリーに含めるべき必須要素は以下の通りです:
- 問題点
- 自身の解決策
ミッションステートメント
ミッションステートメントは、プロジェクトの目的とゴールを要約したものです。通常は数文で構成され、エグゼクティブサマリーと同じスライドに表示することができます。これは、チームメンバーやステークホルダーを共通のアイデアと目的で結びつけながら、デザイン・プロセスの指針となります。
Project Managerの記事であるHow to Write a Mission Statementをチェックしてみてください。
市場(またはユーザー)
UXビジネスケースが社内の取り組みである場合、このセクションを「ユーザー」に置き換え、プロジェクトが誰を対象としているかの特定ができます。たとえば、デザインシステムは、製品、UX、およびエンジニアリングの各チームにのサポートをしますが、エンドユーザーにもプラスの影響を与えます。ステークホルダーが実在の人物に共感できるように、エンドユーザーをペルソナで表現するといいでしょう。
問題提起
問題提起は、【重要な問題】、【人への影響】、そして【ビジネスへの影響】の概説であり、Atlassianのデザインマネージャーである ローラ・ヴァン・ドール氏は、「良い問題提起を行うには 2 つの要素があります」と言います。
問題の選択:
「聴衆にアピールできる問題を選び、強調しましょう」
ステークホルダーに売り込む際には、デザインチームだけに焦点を当てるのではなく、問題がビジネスにどのような影響を与えるかを示しましょう。
Delivery Heroの場合、製品チームは、現在のプロジェクトワークフローで「フロントエンドの負債、不整合、市場投入までの時間の遅れが蓄積され、最終的にビジネスの時間とリソースを犠牲にしていること」を示しました。
ユーザーに直接影響を与える問題を提示する場合、ステークホルダーに問題を明確に理解してもらうために、カスタマージャーニー、ユーザーリサーチ、その他のUXアーティファクトを含めるとよいでしょう。
問題の枠組み:
ローラの次のステップは、ターゲットとなるユーザーに対する問題の枠組みです:
- 核となる問題の特定
- その問題が誰にどのように影響するかの概説
- オーディエンスとビジネスへの悪影響の説明
解決策と価値提案
自身のソリューションがどのように企業の問題を解決するのか、その価値提案を記述しましょう。価値提案は、その価値とROI(投資対効果)を説明するので、ビジネスケースにとって非常に重要です。
ステークホルダーは、ビジネス関連の影響に比べたら、ワークフローの問題解決には関心がありません。自身のソリューションはどのようにROIを実現するのでしょうか?
Delivery Heroのデザインシステムチームのアンバー・ジャビーン氏は、解決策にはビジネスメトリクスとKPIを使用して、組織にとってプラスになることの説明が必要だと言います。コスト削減、収益上昇、市場投入までの時間の改善、製品の競争力の向上をどのように行おうとしていますか?
リスク
徹底したビジネスケースは、リスクとその対処法についても検討します。ステークホルダーは、あなたが解決策を多角的に検討し、潜在的な問題に備えていることを知りたがりますからね。
Atlassianのローラ・ヴァン・ドール氏は記事の中で、「夢見る夢太郎ではなく、現実を見ましょう…夢を売りすぎて、成功しかありえないようなシナリオを提示すると、ケースが偏りすぎているように見え、どん底に突き落とされるかもしれないですよ」と述べています。
ロードマップ
ビジネスケースのもう一つの重要な要素は、タイムラインまたはロードマップです。プロジェクトの実現にはどれくらいの時間がかかるのでしょうか、そして、企業は提案された解決策の価値をいつから享受できるのでしょうか?また、ステークホルダーが進捗を確認できるよう、KPI(重要業績評価指標)はどのように設定しますか?
ここでも、関連するビジネスメトリクスの使用が重要です。例えば、人材について議論する場合、デザイン、プロダクト、エンジニアリングなど、部門ごとの総時間を見積もりましょう。このような内訳により、ステークホルダーは、プロジェクトが会社の人的資源や他のプロジェクトにどのような影響を与えるかを見ることができます。
必要なリソース
人材、資金、技術、デザインなど、プロジェクトに必要なリソースは何でしょう。可能であれば、複数のシナリオを用意し、利用可能なリソースに基づいた選択肢をステークホルダーに提供しましょう。
プロジェクトの実施前、実施中、実施後にどのようなリソースが必要になるかを考えましょう。たとえば、デザインシステムには、開始前のデザイン監査、デザインシステムの構築と提供のための人材、デザインシステムの管理と拡張のためのチームなどが必要です。デザインシステムが成熟するにつれて、より多くのリソースが必要になります。
チーム
ビジネスケースの背後にあるコアチームと、プロジェクトを実現し、拡大するために必要な人材について、特に詳しく説明しましょう:
- UXデザイナー
- エンジニア
- プロダクトマネージャー
- アナリスト
- ステークホルダー
強力なUXビジネスケースのためのベストプラクティス
2022年5月に開催されたDelivery Hero MENA(talabat)のDesignOps Director、アンバー・ジャビーン氏によるウェビナー「Enterprise Design System – How to Build and Scale」から、ベストプラクティスをいくつか拝借しました。
1. 本当のペインポイントから始める
ビジネスケースには、製品、ユーザー、そしてビジネスに悪影響を与えるペインポイントが含まれてないといけません。問題の影響を受けるのがチームメンバーだけだと示されていたら、ステークホルダーが行動を起こす可能性は低くなります。
例えば、その問題が【手直し(余分なコスト)】、【ユーザビリティの問題(ユーザーを失い、費用のかかるサポートチケットを生み出す)】、【技術的負債(余分なコスト)】、【市場投入までの時間の遅れ(競争力の低下と収益の損失)】を生み出していると証明できたとします。そうすると、あなたにはステークホルダーの注目が集まる真のペインポイントがあるということになります。
2. 価値提案の構築
ペインポイントを中心に価値提案を構築しましょう。あなたの解決策は、問題を解決し、ROIをもたらさないといけません。現実的であること、そしてリスクを考慮したことをステークホルダーに示すことを忘れないようにしましょう。
3. 最大の支援者とスポンサーを特定する
UX以外のリーダーやステークホルダーを見つけ、ビジネスケースをサポートすることで、より重みのあるビジネスケースにすることができ、以下のような提唱を彼らから得られるでしょう:
- 特定された問題は、現実のものである
- 提案されている解決策と価値提案は最良の選択肢である
ビジネスケースには、このような支持者を含め、場合によっては最も影響力のあるステークホルダーの言葉を引用することもできます
4. 語る前に見せる
UX以外の人は、UXとデザイン思考の原則を理解するのが難しいことから、問題を説明するだけでは不十分です。なので、何が問題で、それがビジネスにどう影響するかを見せる必要があります。
Delivery Heroで見たように、アンバーのチームは、会社の時間とお金を浪費している非効率性と問題を示す実験を提示しました。そして、自分たちの解決策がその問題を解決し、組織に価値を提供できることを証明したのです。
ステークホルダーに理論を提示すれば、彼らは証明しろと送り返すでしょう。時間をかけてテストや実験を行い、自分のソリューションを実行し、それがうまくいくことを証明しましょう。
5. ビジネスメトリクスを語る
あなたの問題と解決策には、あなたのビジネスケースをサポートするための数字が含まれていなければなりません。ステークホルダーは、査定のためのメトリクスやKPIを見たいのです:
- 問題の状態と規模
- あなたの解決策がどのようにその数値を改善するのか
6. 一人でしない:ネットワークの構築
ステークホルダーにビジネスケースを提示する前に、部門を超えたチームメンバー、リーダー、マネージャー、そして問題の影響を受けるすべての人に話を聞いて、解決策への支持と賛同を得るようにしましょう。プロジェクトの背後に組織があれば、意思決定者から承認を得られる可能性が高くなります。
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