エンタープライズ・デザイン思考で「デザイン」を広げるには
エンタープライズ・デザイン思考は、企業が直面する問題である「チームやステークホルダー、エンドユーザー間の断絶」を補うためにIBMによって考案されたものです。IDEOの伝統的なデザイン思考の方法論を取り入れ、企業レベルで特有のプロジェクトの課題に特化しています。IBMのエンタープライズ・デザイン思考の一番の大きなメリットはプロセス全体を通して、人とのつながりを優先できることです。それによって、最終的にデザイナーは、従来の共感する方法では得られなかった、ユニークなユーザーインサイトを得ることができるのです。
企業にとって最大の課題の1つは、人間的なつながりを維持することです。多くの企業は、「これは人とのつながりの問題を解決するのか?」「この製品・機能は需要があるのか?」などと問わなければ、テクノロジーやイノベーションに多大な投資をしてしまうという過ちを犯しています。顧客との接点を失うと、デザイン思考の基本原則である「デザイラビリティ」を満たさないイノベーションを優先してしまうのです。
Appleはこのことを、90年代に発売され、製造中止となったパーソナルアシスタント機器(PDA)、アップル・ニュートンでの体験から痛感したそうです。このPDAは当時としては信じられないほど革新的ではありましたが、「価格が高い」「機能性が優れない」といった理由から、顧客は現在のiPhone 13の4倍ほどの大きさの携帯端末に何の目的も見いだせませんでした。
企業が適切なリサーチやデザイン思考を適用して、製品のプロトタイプやテストを効果的に行うことができなかった例は他にも多くたくさんあります。エンタープライズ・デザイン思考は、人とのつながりの断絶を解決することを目的としており、UX部門を超えた人間中心の考え方を身につけることで、チームが顧客と共感し、現実の問題を解決できるようにします。
部門間でのコラボレーションやユーザビリティテストを向上させる方法のひとつに「適切なデザインツールの導入」があります。UXPinはコードベースのデザインツールで、部署間や関係者間のコミュニケーションとコラボレーションを強化し、デザイン、テスト、イテレーションを迅速に行えるようにするために構築されています。
エンタープライズ・デザイン思考とは?
エンタープライズ・デザイン思考は、従来のデザイン思考モデルを現代の企業に適したものへ再解釈されたフレームワークです。IBMによって開発された、エンタープライズ・デザイン思考は、現代の企業のスピード感とスケールでユーザーの問題を解決するための人間中心型のフレームワークです。
フレームワーク原則
IBMは、エンタープライズ・デザイン思考のフレームワークを導くために、3つの基本原則を使用しています。
- ユーザーの成果にフォーカス:ユーザーの目標達成を支援することで、ビジネスを推進する。
- 絶え間ない改革:すべてをプロトタイプとして扱い、常に本質的であり続ける。
- 多様なエンパワーメントチーム:多様なチームに権限を与え、より速く行動できるようにします。
思考と革新のループ
エンタープライズ・デザイン思考は、デザイン思考プロセスの5段階(共感、定義、アイデア、プロトタイプ、テスト)を、デザインとプロトタイプの反復ループに置き換えたものです。
- 観察:現実の世界に浸る
- 反映:集まって内観する
- 作る:抽象的なアイデアを具体化する
チーム連携
最後に、エンタープライズ・デザイン思考は、スケーラブルなフレームワークを用いて、人間を中心とした共通の目的に向かってチームを調整するものです。
- ヒルズ:ユーザーの有意義な成果を達成するためにチームを調整する
- プレイバック:定期的なフィードバックで連携を保つ
- ユーザーを支援:現実のニーズに忠実であるために、専門家であるユーザーを作業に招待する。
エンタープライズ・デザイン思考は企業にどのように役立つのか?
エンタープライズ・デザイン思考は、企業の2つの重要な課題を解決することを目的としています。:
- デザインプロセスに顧客を招き、アイデアとイノベーションが実際の問題解決に関連するものであることを確認する。
- コラボレーションをデザイン思考プロセスの一部とすることで、チーム、部門、ステークホルダー間のサイロをなくす。
現実の問題を解決するために、ユーザーの成果に焦点を当てる
エンタープライズ・デザイン思考の鍵は、ユーザーの成果と多様なチームによる問題解決に重点を置いています。これは、チームが焦点を当てるべきな成果や目標を作成するために、ユーザーに共感するためのプロブレムステートメントに似た手法である「Hill(ヒル)」から始まります。 チームは3つの要素を用いてHillステートメントを作成します。
- 誰の(Who):ユーザーペルソナ。誰のためにデザインするのか?このWhoは、人間的なつながりを生み出すために、できるだけ具体的である必要があります。
- 何を(What):何を解決しようとしているのか?ユーザーのニーズがプロジェクトのゴールになります。
- 驚き(Wow):あなたのユニークなセールスポイント。あなたの製品は競合他社とどのように違うのか?
ヒルにはこの3つの要素が含まれていれば、順番は関係ありません。IBMの例で言うと 「開発者(Who)がIBMとサードパーティのAPI(What)を使ってアプリを構築し実行するのに、30分以上(Wow)かからないこと。」ヒルが定義されたことで、チームは達成すべき明確な目標を持つことができる。このステートメントでは、機能の設計や技術革新よりも、人間の問題を優先しています。その代わり、問題を解決することがイノベーションになります。
ステークホルダーやチームとのコラボレーションを促進する
従来のデザイン思考では、コラボレーションやステークホルダーとの協力を優先して考えていませんでした。IBMのエンタープライズ・デザイン思考では、プレイバックによってステークホルダーを含めて、組織のゴールとユーザーのゴールを一致させます。 大きな組織では、ステークホルダーとプロジェクトチームの足並みが乱れ、摩擦やフラストレーションが生じることは珍しくありません。 プレイバックでは、ステークホルダーがチームメンバーと定期的に会い、全体像に関する話を共有し、プロジェクトのフィードバックを交換することを推奨しています。その目的は、破壊的なサイロを壊し、多くの企業が経験する「チーム、部門、ステークホルダー間」のメンタリティーを排除することです。
現実への共感性を高める
エンタープライズ・デザインでは、宇宙機関、医療機関、政府機関、大規模生産など、高度な技術を持つプロフェッショナルや大規模な組織向けの製品をデザインすることがよくあります。 デザイナーは、このような複雑な労働環境のコンテキストや実体験を持たないため、これらのユーザーに共感することはほとんど不可能であり、結果としてエンドユーザーにとって意味のないデザインソリューションが生み出されてしまうのです。 エンタープライズ・デザイン思考では、スポンサーユーザー(業界の専門家)をデザインループに加えることで、デザイナーは共感するだけでなく、専門知識を持つユーザーから学ぶこともできるのです。目標は、製品の成功に既得権を持つ専門家を見つけることです。その上で、コンセプト考案から最終製品完成までのデザイン全工程に携わることができる人が望ましいでしょう。
IBMとIDEOのデザイン思考手法の比較
IDEOのデザイン思考に本質的な問題はないのですが、IBMは企業独自の課題に対応する方法論を必要としていました。
- 多様なチームコラボレーションによるサイロの打破
- デザインプロセスへのステークホルダーの参加
- デザインソリューションの開発を支援するドメインエキスパートの追加
- 企業レベルのプロジェクトが抱える規模や不明瞭な課題への対応
エンタープライズ・デザイン思考で「デザイン」を広げるには
『Scaling Design Thinking in the Enterprise』では、イルミナのシニアUXディレクターである著者のジュリー・バハーが、3つのステップのプロセスを概説しています。JulieのプロセスはIBMのアプローチと若干異なりますが、基本的なコンセプトは同じで、サイロを壊し、デザイン思考プロセスにステークホルダーと協力をします。
- コアサポーターを募集する:UXのワークフローを理解し、賛同を得るために、ステークホルダーと協力してデザイン思考を学びます。
- 組織を変える:公式・非公式なイベントを利用して、デザイン思考を組織全体に拡大します。
- リーン・スタートアップの実行:デザイン思考の演習で定義した目標をもとに、プロトタイプとテストの反復プロセスを開始します。
上記で説明した「Scaling Design Thinking in the Enterprise(企業におけるデザイン思考の拡大)」は無料のebookで読むことが可能です。
UXPin Mergeを活用したPaypalの事例
1000人を超える開発者と100を超える製品に対して、デザイナーはわずか3人。PayPalの開発者向けツールのUXデザインを担当するErica Riderは、デザインチームの規模を拡大せずにデザインの領域を拡大するという重大な課題を抱えていました。
PayPalが抱えていたデザインプロセスに影響を与える4つの大きな問題
- 一貫性のないUIとデザインシステムの使用
- 迅速なプロトタイピングを妨げる部門間のサイロ化
- 部門間(特にUX、プロダクト、エンジニア)のコミュニケーション不足
- デザインプロセスにおけるステークホルダーの意見やフィードバックの少なさ
イメージベースのデザインツールを使っていくつかのアイデアを試した後、EricaはUXPin Mergeと出会いました。コードベースのデザインツールで、リポジトリからUXPinのデザインエディタにコードコンポーネントを同期させます。 UXの知識やデザインツールの使い方をあまり知らないデザイナーが、これらのコードコンポーネントをドラッグ&ドロップして、最終製品のような外観と機能を備えた忠実度の高いプロトタイプを作成することができます。 さらには、PayPalの初心者のプロダクトデザイナーは、イメージベースのデザインツールを使用する経験豊富なUXデザイナーよりも8倍速く、これらの完全に機能するプロトタイプを構築しました。
PayPalは、UXPin Mergeによって、エンタープライズ・デザイン思考の方法論に沿った下記のメリットも得ることができました。
- UXチーム、製品チーム、開発チーム間のコラボレーションとコミュニケーションの向上。
- UXPinのコメントを使用して、完全に機能するプロトタイプを操作し、UIに関するフィードバックを提供するステークホルダーの関与が増えます。
- 最終製品を開発するためのコーディングが少なくなり、市場投入までの時間が短縮される。
- デザインチームと開発者が同じデザインシステムコンポーネントを使用し、社内レポにホストされる信頼できる唯一の情報源。
- 完全に機能するプロトタイプと対話できるため、ユーザビリティ参加者から有意義なフィードバックが得られる。
UXPinのコメントを使用して、完全に機能するプロトタイプを操作し、UIに関するフィードバックを提供するステークホルダーの関与が増えます。 それによって最終製品を開発するためのコーディングが少なくなり、市場投入までの時間が短縮されます。 デザインチームと開発者が同じデザインシステムコンポーネントを使用し、社内レポにホストされる信頼できる唯一の情報源。 完全に機能するプロトタイプと対話できるため、ユーザビリティ参加者からの有意義なフィードバックが得ることができます。 PayPal が UXPin Mergeを通して、世界最大の FinTech 企業の 1 つである同社製品の迅速な開発プロセスをどのように実現したかをご覧ください。
まとめ
エンタープライズ・デザイン思考は、IDEOの伝統的なデザイン思考手法を、企業レベルの課題を特有のプロジェクトに対応させるために応用したものです。
企業が経験する「チーム、ステークホルダー、顧客間の断絶」を補うために、IBMのエンタープライズ・デザイン思考の方法論はプロセス全体を通して人とのつながりを優先しています。
その結果、エンドツーエンドのデザイン思考プロセスが生まれ、ステークホルダーがチームと関わり、チームメンバーに目的意識を持たせながら、プロジェクトとビジネス目標を一致させるストーリーを共有することを促します。
特定分野専門家と協力することで、デザイナーは従来の共感する方法論では得られないユニークなユーザーインサイトを得ることができます。 また、企業レベルの成果を得るためには、スピード・コラボレーション・スケーリングに優れた企業レベルのソリューションに導くことができるデザインツールも必要になります。
PayPalの例の通り、UXPin Mergeはデザインと開発間のギャップを上手く埋めるとともに、デザインプロセスでステークホルダーと協力することが可能です。
UXPin Mergeの完全に機能するプロトタイプにより、デザイナーはIBMのエンタープライズ・デザイン思考ループ(観察、反映、作成)に従ってソリューションを反復し、より優れた顧客体験をデザインすることができます。
UXPin Merge の詳細に関してはこちらをご覧ください。